絞り加工(その1)最適なしわ押さえ力はどうだすの?

今回より3回シリーズで「絞り加工」について解説していきます。
絞り加工は、継ぎ目のない綺麗な成形品ができる加工法ですが、成形条件を正しく設定するための事前の計算がとても重要になります。初回は「しわ押さえ力」の求め方ついて解説していきます。

絞り加工とは

絞り加工は板素材より円筒や角筒などの底のある形状をつなぎ目がなく加工する技術です。
切削や溶接といった加工を伴わずに最終形状になるので生産性が高く、プレス加工ならではの大きなメリットがありますが、失敗するとしわや割れなどが発生してしまいます。そこで、しわや割れを抑制するための対策を、あらかじめ講じておく必要があります。

しわ押さえ力とは

しわは、被加工材が絞りダイス内部に引き込まれる際に発生します。そこで、しわを防ぐためにはブランク材を金型で押さえておく必要があります。押さえる力が弱いとしわが発生し、抑える力が強すぎると被加工材が絞りダイス内部に引き込まれなくなり、割れが発生してしまいます。
よって、最適なしわ押さえ力とは「しわが無くなる最低限の力」といえます。しわ押さえ力は材質や押さえる面積により変わりますが、概略値は計算により求めることができます。

  【しわ押さえ力の求め方】

  Pab=An×pb÷1000

     Pab:円筒絞りのしわ押さえ力(kN)
     An:ブランクを押さえるしわ押さえの面積(mm²)
     pb:押さえ面圧(N/mm²)


表1 限界絞りを行う場合のpbの値

やってみよう

では実際に、最適なしわ押さえ力を求めてみましょう。
【問題】
  径φ60のブランクより絞りダイス内径φ34の絞り加工を行う際のしわ押さえ力は何kNでしょう?
  材質は普通軟鋼、板厚は1mm、絞りダイRはR3とします。
 
※ブランクを押さえるしわ押さえ力の面積は、ブランク面積より絞りダイスのダイRエンドの径の面積をマイナスしたもの
※Rは半径、2Rが直径です。よってR3とは半径3mmです。絞りダイRエンドの径とはダイス内径とダイRを2倍したもの(直径)を足した径となります。よって、ダイRエンドの径=ダイス内径+2Rとなります。


絞りダイス図解


【途中式】(π=3.14で計算)

1. ブランクの面積
ブランク半径をRとすると 面積=πR² よってブランク径の面積V₁=π×30²=2,826mm²

2. ダイRエンドの径の面積
ダイRエンドの半径をrとすると r=ダイス内径÷2+3より =17+3=20mm
ダイRエンドの径の面積V₂は、面積=πr²より V₂=π×20²=1,256mm²

3. しわ押さえ面積(An)
An=V¹-V²=2,826-1,256=1,570mm²

4. しわ押さえ力
pb=1.8N/mm²とした場合、Pab=1,570×1.8÷1000=2.83kN(四捨五入)

(答え)
2.83kN

いかがでしょうか?
次回のシリーズ第2回目では、「絞り率」について詳しく解説していきます。お楽しみに!

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